弁護士コラム
第50回
『医療法人社団理事(役員)の退職代行』について
公開日:2024年12月4日
退職
弁護士法人川越みずほ法律会計の弁護士の清水隆久と申します。
退職代行をはじめて早いもので、数年が経ちました。その間、数多くの退職代行をした経験から「これは」と思うことをコラムにします。
コラム第50回は「医療法人社団理事(役員)の退職代行」についてコラムにします。
医療法人で理事(役員)になっている方は、新規クリニック開設(分院開設)や管理者の引き継ぎにより、理事(役員)として入職されているものの、業務により体調を崩されているケースもあります。また、医療法人側としても、引き継ぐ管理者がいない場合などから、無理に引き留めをしているケースも多くあります。理事(役員)としては、いち早く退職したいという希望はあるものの損害賠償の可能性もあり、簡単には退職できない場合も多くあります。
普段、私は、自衛官や自衛隊に関するコラムをよく書いていますが、自衛官や自衛隊の退職代行と同じぐらい難易度が高いことから、今回は医療法人の理事(役員)の退職代行についてコラムにしました。最後まで、ご拝読頂けると幸いでございます。
目次
1.医療法人の理事(役員)の退職について
医療法人社団の理事(役員)の退職代行について、依頼や相談が増えています。医療法人社団の理事は、歯科医師や医師の先生がなっており、その診療所の管理者になっていることがほとんどです。医療法人においては、原則として、役員として原則3名以上の理事及び1名以上の監事をおく必要があります(医療法第46条の5第1項)。
また、理事は、株式会社の取締役に相当するもので、社員総会又は評議員会により選任され、医療法人との間の委任契約(民法第643条)に基づき、医療法人の常務を処理することをその役割とします。理事の任期は2年間ですが、再任することもできます(同法46条の5第9項)。
なお、医療法人で開設するすべての病院、診療所、介護老人保健施設の管理者は、医療法人の理事に加える必要があるとされています(同法46条の5第6項)。医療法人と理事(役員)との間には、委任契約が成立しているので、委任契約を解除するにあたって、弁護士(私)から解除通知をすることで退職にもっていきます。委任契約についてはいつでも解除できますので、医療法人の理事(役員)の退職代行については、退職代行したその日が退職日となる『即日退職』になります。
・参考条文
民法第651条
第1項
委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。
2.医療法人の理事(役員)の退職にあたっての損害賠償について
もっとも、医療法人の理事(役員)は管理者になっているため、例えば『即日退職』することで、分院を閉院すること(損害発生すること)で医療法人から退職者(理事)に対して損害賠償請求する可能性もあります。民法第651条第2項に、①不利な時期に、②やむを得ない理由なく解除した場合には、損害賠償を受けることが明記されています。
したがって、理事(役員)について退職代行する際には、①不利な時期にあたらないか、退職者にとって、退職が②退職がやむを得ない理由にあたるかなど、担当弁護士は依頼者からヒアリングしなければなりません。理事(役員)の方で、退職にあたって、損害賠償が心配であれば、私までご相談ください。力になります。
次に、①②については、何度か私のコラムで解説していますが、今回も繰り返し解説します。
まず、①不利な時期とは、事務処理自体との関連において相手方に不利な時期をいいます(東京高裁昭和63年5月31日判決)。受任者が解除する場合では、委任者がその委任事務を自ら処理したり他人に処理させたりすることができないような時期に解除する場合が該当します。今回であれば、管理者になっている理事の方が「突然」退職すれば、医療法人の他の理事や自らの理事が代わりに委任事務を自ら処理することが難しいケースが多いため、不利な時期にあたると言えます。
したがって、ヒアリング時には、即日退職の理由や必要性を聞きつつ不利な時期にあたらない引き継ぎ期間を設けることや、次の管理者が見つかる代替期間を設ける必要があるかなど、事前に検討します。
次に、②やむを得ない理由とは、委任契約が信頼関係を前提とした契約であることから、会社側が信頼関係を毀損する行為(不誠実な行為)をしたり、退職者に病気などがあり、事務処理ができない場合があたると考えます。医療法人の理事(役員)が退職することで、医療法人側の信頼関係を毀損している事情や理事側の具体的な事情を検討します。繰り返しになりますが、退職を検討している理事の方で、①②について、お困りであれば遠慮なく私までご連絡ください。
・参考条文
民法第651条
第1項
委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。
第2項
前項の規定により委任の解除をした者は、次に掲げる場合には、相手方の損害を賠償しなければならない。
ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。
⑴号 相手方に不利な時期に委任を解除したとき。
理事が使用人兼務役員(兼務理事)の場合については、理事の身分と雇用契約の従業員部分についても、退職代行する必要があります。雇用契約は、民法第627条第1項により、退職の申し出をしてから14日間経過する日をもって退職となります。
また、兼務理事の場合には、有給残日数、時間外労働に対する給料の請求ができます。
その他、兼務役員の退職代行については、コラム第49回で解説しています。お時間がありましたら、使用人兼務役員の理解がより進むと思います。
3.理事(役員)の退職代行の委任の範囲について
理事(役員)の退職代行に関する委任の範囲については、以下の通りとなります。
委任契約の解除(退任)代行
使用人兼務役員の場合には、退職代行
医療法人の理事の登記抹消請求
損害賠償に対する対応
管理者の交代は保健所へも届け出る必要があり、さらに厚生局へも届け出する必要がありますので、その催促も含まれます。
その他、都道府県庁への変更の届出についての医療法人への催促
となります。
なお、仮に、理事(役員)を退任したにもかかわらず、医療法人が抹消登記をしなかった場合には、表見理事の問題となります。表見理事の問題については、コラム第23回『取締役の退職代行』で解説しています。お時間がありましたら、ご拝読ください。
4.損害賠償対応プランについて
医療法人の理事の退職代行の基本プランは、55,000円になります。
基本プランの委任の範囲としては、
❶解除及び退職の対応
❷訴訟外での会社から退職に対して請求された損害賠償の交渉
が含まれますが、仮に、裁判された場合も対応できるプランとして、損害賠償対応プランを作っています。
❸ ❷に加えて訴訟(簡裁、地裁など)の対応を行います。
❸の対応としては、追加費用25,000円となり、退職代行実行時までのお申し込みが❸の対象となります。
詳しくは、私までお問い合わせください。
仮に、裁判上で、損害賠償請求として訴えられた場合でも、合計80,000円で私が対応します(交通費等の実費は別途かかります)。
5.過去の対応事例について
過去の対応事例についてご紹介します。
対応事例⑴
医療法人社団の理事で、分院(クリニック)の管理者になっている事例
内容証明郵便にて、2ヶ月後を解除として、通知しました。雇用保険にも加入されていたので、離職票についても請求をしました。
対応事例⑴からわかること
即日退職の場合には、閉院の可能性もあるため、引き継ぎ期間を設けるために、2ヶ月後を退職日として設定しました。法律上、即日退職が可能であるものの、円満退職のために、依頼者と相談の上、2ヶ月後を退職日にしました。今回、2ヶ月後の退職でも、オーナーのいる場所と分院は離れているため、幸いにも顔を合わせることもなく退職となりました。
対応事例⑵
医療法人の理事になっている事例で、通知後、出勤せずに退職した事例
兼務役員であったことから、有給消化した上で、退職にもって行きました。
幸いにもクリニックには、他の医師もいたため、揉めることなく退職となりました。
対応事例⑵からわかること
引き継ぎする医師の先生がいることで、即日退職でも、損害賠償請求されませんでした。
引き継ぎがどのようになるかで、円満退職になるか否かが決定すると言えます。
対応事例⑶
即日退職になったものの、理事長から理事(退職者)に対してパワハラなどを主張し、損害賠償請求について交渉しました。
対応事例⑶からわかること
②やむを得ない理由についての検討事例にあたります。今回、パワハラにあたる証拠はなかったので、慰謝料請求はしませんでしたが、相談時に、やむを得ない理由について事前に依頼者と時間をとって協議しました。
6.まとめ
今回は、医療法人の理事(役員)の退職代行について解説しました。取締役の退職代行と同じように理事(役員)の退職代行についても相談が増えています。当然のことながら民間の退職代行会社や労働組合系の退職代行会社が理事の退職代行することはできませんので、必ず弁護士に依頼、相談するようにしてください。理事の退職代行で迷った場合には、遠慮なく弁護士である私にご相談ください。力になります。
・関連コラム
第23回『取締役の退職代行』について
第35回『即日退職と退職代行』について
第49回『使用人兼務役員の退職代行』について
・参考コラム
第19回『業務委託の退職代行』について
第22回『業務委託の退職代行(解除代行)』について
第31回『業務委託契約の退職代行』について
業務委託契約についても、使用人兼務役員と一緒で、委任契約の解除が問題となりますので、お時間がありましたら、ご拝読ください。
・参考条文
民法627条
第1項
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。
この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
弁護士法人川越みずほ法律会計の紹介
いち早く退職代行を手掛け、今までも多数の相談及び解決事例があります。
今回、その中でもご質問が多いご相談事項をコラム形式でまとめました。
この記事の執筆者
弁護士清水 隆久
弁護士法人川越みずほ法律会計 代表弁護士
埼玉県川越市出身
城西大学付属川越高校卒業、中央大学法学部法律学科卒業、ベンチャー企業経営、労働保険事務組合の理事、社会保険労務士事務所の代表を経て、予備試験合格、司法試験合格、司法修習終了後、弁護士法人川越みずほ法律会計を設立、同弁護士法人代表に就任。労務・税務・法律・経営の観点から、企業法務に関わる傍ら、東から西へと全国を飛び回る。社会保険労務士時代に得た労働社会保険諸法令の細かな知識を活かし、かゆい所に手が届く退職代行サービスを目指して日々奮闘中。2019年に携わった労働事件(労働者側・使用者側の両方。労働審判を含む)は、60件以上となる。
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