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弁護士コラム

第195回

『【弁護士が解説!】傷病手当金の事業主証明をしないケースの対応』について

公開日:2025年12月8日

退職

弁護士法人川越みずほ法律会計の弁護士の清水隆久と申します。

退職代行を専門的にはじめて早いもので、数年が経ちました。

その間、数多くの退職代行をした経験から「これは」と思うことをコラムにします。

コラム第195回は『【弁護士が解説!】傷病手当金の事業主証明をしないケースの対応』についてコラムにします。

※傷病手当金の事業主記入をしないケースについてお悩みでしたら『弁護士法人川越みずほ法律会計』の『弁護士の退職代行』のページからお問い合わせください。

目次

1.傷病手当金の事業主証明をしない??

傷病手当金とは、『業務外』の『私傷病』によって『労務不能』となった場合に、その『労務不能』の期間(最大1年6ケ月間)について、国が手当金を出す制度を言います。傷病手当金の財源は、健康保険料をベースにしています。

また、傷病手当金の要件としては、①業務外であること、②医師がその私傷病について労務不能であることを証明すること(意見を記入すること)、③その労務不能期間について、④会社が事業主証明をすること、が要件となっています。

かつては、④事業主がその事業主証明をしないケースでは、その保険者に対して、記入しない旨についての『申立て』をすることで職権支給させるケースがありました。

しかしながら、現在ではそのような④事業主が証明しないケースで職権支給するケースはほとんど聞かなくなりました。

2.事業主証明をしない場合の対応

今回のコラムは、万が一、事業主が『事業主証明』をしないケースではどのような対応をすべきかについて解説していきます。

❶事業主が証明をしないなどの根本原因を取り除くこと

事業主証明をしないケースでは、労使双方で揉めているケースが多くあります。例えば、退職時に未払い残業代を請求しているケースや解雇無効の主張を争っているケースでは、事業主が傷病手当金申請について協力しないケースが多くあります。また、退職時に『貸与品』を返却していないケースや借入金があって返済していないケースなどもあります。

特に、1年以上(例外あり)その会社で健康保険に加入しているケースでは、退職後についても継続的な労務不能(例外はあるものの傷病原因が同じ)であれば退職後についても最大1年6ケ月の間、『傷病手当金』を受給できます。体調不良などがあればしっかりと療養することができます。

退職後について傷病手当金申請をするための要件として、退職日までに一度『傷病手当金申請』を行う必要があります。それにも関わらず、会社が事業主証明をしないケースは最近多くなっています。

そこで、少なくとも、退職日までの病手当金申請を行うために、事業主証明を貰うまでは会社と未払い残業代請求や解雇無効について争うことを控える方法がおすすめです。また、貸与品があればスムーズに返却しましょう。さらに、借入金があるケースでは返済計画をしっかりと会社と話合うことも視野に入れましょう。

❷会社が事業主証明をしないことを保険者(全国健康保険協会、健康保険組合)に『申告』する方法

事業主証明をしない場合に、保険者に指導を入れてもらう方法が考えられます。健康保険法施行規則第33条によれば、「事業主は、保険給付を受けようとする者から省令の規定による証明書を求められたとき、又は第110条の規定による証明の記載を求められたときには、正当な理由がなければ拒むことができない。」となっています。

したがって、事業主が証明を行わない場合には、同規則第33条違反について、保険者に申告する方法があります。その際、証明書を求めた事実についての「経緯書」を申告者の方で事前にまとめた上で、保険者に提出することを私はおすすめします。

しかしながら、この「申告」→「指導」という流れでも会社が事業主証明をしないケースもあります。また、残念ながら、あくまでも「指導」にとどまり保険者が会社に対して強制的な手段を取ることはないと私は思っています。もっとも、一定の効果があるケースもありますので、まずは保険者に対して協力義務違反について申告することをおすすめします。

なお、❷と関連して、労働基準監督署に傷病手当金申請の協力をしない旨の申立てをすることで解決できると解説するコラムもありますが、傷病手当金申請の協力義務を判断するのは、労働基準監督署の権限外となりますので、労働基準監督署に相談しても、あくまでも相談レベルにとどまります。実効的な解決を労働基準監督署が行うことはないと考えられます。

❸会社が事業主証明をしない場合には、裁判手続きを使う方法

事業主証明は、健康保険法施行規則第33条で定められた会社の義務になります。したがって、その証明をしないことは債務不履行ないし民法709条の義務違反に基づく損害賠償請求をする方法があります。参考裁判例を掲載します。

東京地裁 令和6.11.13

糖尿病の治療のため約2週間入院していた従業員が、チャットで、経過を報告し、傷病手当金支給申請手続への協力を求めた。その後、従業員は会社に申請書を送付し、事業主の証明欄を記入して返還すること等を求めた。しかし、会社は対応しなかった。従業員はこれが不法行為だと主張→事業主は、労働契約に付随する信義則上の義務として、事業主としての証明をするなど傷病手当金の支給申請手続に協力すべき義務がある。会社は、従業員から申請書の事業主の証明欄への記入等を求められたにもかかわらず、これに対応しなかったのであるから、この点について不法行為が成立する。

会社は、⑴従業員が同じ疾病について労災申請をしているから、健康保険の傷病手当金の受給要件を満たさない、⑵傷病手当金の不正受給を疑い、従業員に事実確認を求めたが、従業員がこれに応じなかったため、事業主の証明欄を記入しなかった、⑶その後、事業主の証明欄を記入して従業員に出社を求めたが、従業員がこれに応じなかったなどと主張。しかし、⑴については、労災申請が認められたといった事情は認められず、これをもって、傷病手当金の受給要件を満たさないということはできないし、⑵についても傷病手当金支給申請手続への協力を拒む理由にはならず、⑶については申請書を返還することは可能であったから、会社の主張は採用できない。傷病手当金相当額67万2000円の賠償命令としています。

3.まとめ

傷病手当金申請のいくつかの裁判例について分析すると、実は傷病手当金申請の事業主証明をしないことを原因とした義務違反→損害賠償請求については、訴え却下になっています。

私の方で義務違反についての損害賠償請求について裁判提起をしているケースもありますが、裁判の過程で事業主が証明を行うことがほとんどでそのケースでは訴えが却下になっています。

裁判例のデータベースを調べると訴え却下になった事実だけ残っており、なぜ訴え却下なのかという疑問だけが残ります。私のコラムを読んだことで納得されるのではないかと思います。

弁護士法人川越みずほ法律会計の紹介

いち早く退職代行を手掛け、今までも多数の相談及び解決事例があります。
今回、その中でもご質問が多いご相談事項をコラム形式でまとめました。

この記事の執筆者

弁護士清水 隆久

弁護士法人川越みずほ法律会計 代表弁護士

埼玉県川越市出身

城西大学付属川越高校卒業、中央大学法学部法律学科卒業、ベンチャー企業経営、労働保険事務組合の理事、社会保険労務士事務所の代表を経て、予備試験合格、司法試験合格、司法修習終了後、弁護士法人川越みずほ法律会計を設立、同弁護士法人代表に就任。労務・税務・法律・経営の観点から、企業法務に関わる傍ら、東から西へと全国を飛び回る。社会保険労務士時代に得た労働社会保険諸法令の細かな知識を活かし、かゆい所に手が届く退職代行サービスを目指して日々奮闘中。2019年に携わった労働事件(労働者側・使用者側の両方。労働審判を含む)は、60件以上となる。

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